バングラデシュの首都ダッカの路地裏では、世界一とも称されるリキシャの群れが絶え間なく埃を巻き上げ、神経を逆撫でするクラクションの合唱が、べっとりとした熱気とともに脳髄へこびりついてくる。首から大仰なカメラをぶら下げて歩き回ってはいるものの、ひたすらにうるさく、暑苦しいばかりである。
そんな狂騒から逃げ込むように入り込んだ薄暗い路地を歩いていると、使い込まれた木彫りの装飾がある戸口に、幾何学模様のサリーを纏った年配の女性がひっそりと立っていた。一枚の布を体に巻きつけるサリーという衣装は、広げれば5メートルから時には8メートル以上にもなるらしく、着付けの煩わしさを想像するだけでこちらの息が詰まりそうになる。しかし彼女はそれを実にごく自然に、涼しげに着こなしている。僕が暇つぶしに無骨なカメラを向けると、彼女は得体の知れない機械の筒先を静かに一瞥し、やがて顔の皺を少しだけ寄せて微笑んだ。その口元には、異邦人に対する過剰な愛想などなく、ただそこを通り過ぎる野良犬でも眺めるような、達観した静けさがあった。
周知の通り、この国は人口の約8割(最近の統計では9割を超えているらしいが、どちらにせよ圧倒的多数だ)がイスラム教徒で占められている。大通りを歩けばヒジャブで髪を覆った女性ばかりが目につくものだが、この上品な女性は髪を隠すこともなければ、額の眉間にはくっきりと丸いビンディを付けていた。おそらく彼女はヒンドゥー教徒なのだろう。
| 2010年3月 バングラデシュ 人びと | |
| ビンディ ダッカ ピアス サリー 笑顔 女性 |
No
3872
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年03月26日
更新日
2026年03月10日
撮影場所
ダッカ / バングラデシュ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM