インド西部の町、ナシークのバス停に停まっていたのは、年季の入った白い車体のバスだった。夕暮れ時で、仕事を終えた人びとが家路を急ぐ時間帯だ。バスの中はすでにすし詰め状態で、ドアの付近には制服姿の学生たちが立ち並び、互いの鞄や肘がぶつかり合っていた。外の風を入れるためか、あるいは単に壊れているだけなのか、ドアは開いたままだった。
一人の男の子が乗降口に立ち、片手で手すりをつかみながらこちらを見た。目が合うと、男の子は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐににっと笑った。その笑顔は、南アジア特有の無邪気さとしたたかさが入り混じったような笑みだった。彼の背後には髪にリボンをつけた女子学生が見えた。白い靴下が埃っぽい床に触れるたび、旅の一場面がフィルムのように焼き付く。
それにしても、この国の交通機関はどこか自由だ。インドでは電車もバスも、出発時に扉を閉めるという習慣があまりない。乗りたい者は走って追いかけ、降りたい者は走りながら降りる。合理的なのか無謀なのか、判断に迷うところだ。しばらく男の子と向かい合っていたが、運転手はクラクションを鳴らし、そのままドアを開けたままバスを発進させた。男の子の笑顔がぐんぐん遠ざかっていく。
| 2011年3月 インド 人びと | |
| バス 扉 振り返る ナシーク リボン 男子学生 タイヤ |
No
5350
撮影年月
2010年9月
投稿日
2011年03月27日
更新日
2025年11月06日
撮影場所
ナシーク / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM