コルカタに住む人々の家に、本当にお風呂が備わっているのかどうか、僕には確信が持てない。インドの古い町並みを歩いてみると、どうにも風呂なしの家が多数派であるように思えてくる。少なくともフーグリー川沿いに暮らす人々にとっては、川こそがそのまま浴場であり、洗濯場であり、社交場でもあるのだろう。石段を降りていくと、男たちが下着姿で水をかぶり、頭や体を丹念にこすり洗いしている姿が目に入る。初めて目にする者には宗教的な沐浴に見えなくもないが、実際は汗を流す日常行為であり、儀式めいた荘厳さはどこにもない。インドの蒸し暑さに耐えるには、神頼みよりも冷水のほうがよほど効き目があるに違いない。
もっとも「公衆浴場」といっても、日本の銭湯のように番台や桶が並んでいるわけではない。あるのは濁った川の水と、雲間から照りつける強烈な日差しだけだ。だが、ここではそれで十分らしい。インド人にとっては、熱いシャワーなど無用の長物に違いない。むしろ「熱々のお湯に浸かりたい」と考えるのは、旅行者の贅沢な幻想に過ぎない。僕のような旅行者からすれば、毎日冷水だけで体を清めるのは少々心細い。しかし川辺の彼らは至って満足そうである。フーグリー川は全長250キロ以上を流れるガンジス川の支流で、古代から交易と信仰の大動脈として栄えてきた。その歴史を思えば、ここでお風呂代わりに体を洗うことなど、むしろ当然の利用法といえるのかもしれない。
2013年1月 町角 インド | |
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No
7139
撮影年月
2011年7月
投稿日
2013年01月08日
更新日
2025年09月23日
撮影場所
コルカタ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
OLYMPUS PEN E-P2
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42MM