西ベンガル州の都市マルダの路地を歩いていた。ここは名物の甘いマンゴーや上質なシルクで知られる町だが、僕の目的はそうした特産品ではなく、路地の気ままな散策である。日差しを遮るものもない通りを進み、軒下へ入ると、白いタンクトップを着た一人の男と出くわした。彼の大きな瞳と目尻の細かな皺が印象的で、僕は手に持ったカメラを彼に向けてみた。
カメラを向けられた男は、不意のことに一瞬だけ戸惑い、ちょっと照れたような顔をした。しかし拒むわけでもなく、カメラのレンズに向かって、なんとも優しく穏やかな微笑みを返してくれたのである。インドの人々の瞳は大きくて黒目がちであり、表情の豊かさにはいつも目を見張るものがある。彼らの穏やかな笑顔は親愛の情を表す万能の挨拶なのだ。男は大きな瞳でじっとファインダー越しに僕の視線を受け止め、口元をキュッと結んで優しく微笑んでいる。
その優しく微笑む男の肩越しに目をやると、背景の左奥に一人の女性が佇んでいるのが見えた。彼女の額には「ビンディ」と呼ばれる赤い丸い印が飾られている。このビンディはサンスクリット語の「ビンドゥ(滴や点)」に由来し、かつては物事の本質を見通す第三の目(第6チャクラ)の位置を示すヒンドゥー教の聖なる印であった。現在は既婚の証や単なるおしゃれとしても親しまれているが、彼女のその「第三の目」の下にある本物の二つの目は、なんとも冷ややかであった。男の穏やかな表情とは対照的に、心なしかかなり険しい顔つきでこちらを凝視している。
そのかなり険しい顔つきで僕を睨みつける女性の視線に気づき、僕は思わず首をすくめた。手前で男が浮かべる人懐っこい表情と、奥で女性が見せるあからさまな警戒感という、見事なまでの温度差。後ろにいる彼女からしてみれば、どこからかやって来た得体の知れない外国人が、身内の男に怪しげな機械を向けているのだから警戒するのも無理はない。
| 2013年8月 インド 人びと | |
| クスクス笑い 顔 マルダ タンクトップ 皺 |
No
7825
撮影年月
2011年6月
投稿日
2013年08月24日
更新日
2026年07月22日
撮影場所
マルダ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM