白い制服に身を包み、真っ白な帽子をきちんとかぶった男は、スリランカの古都キャンディにある老舗のクイーンズホテルのドアマンだった。建物は植民地時代に建てられたコロニアル様式で、外壁には時間の層が幾重にも積もっている。石造りの柱の間をハトが横切り、扉の奥からは、冷房の涼気とカレーの香りがかすかに漏れてきた。そんな由緒あるホテルの顔ともいえるドアマンは、まるで長年そこに根を下ろした樹木のように、落ち着き払って立っていた。
朗らかな男だった。誰に対しても笑顔を絶やさず、宿泊客だろうが通りすがりの旅人だろうが、同じ笑みで迎えてくれる。僕は当然ながら宿泊客ではなかったが、それでも男は軽やかに扉を押し開けてくれた。ホテルのポリシーなのか、彼自身の哲学なのかは知らない。だが、あの笑顔にはマニュアルの匂いがしなかった。スリランカの陽光に磨かれた真珠のような、自然で人懐こい笑みだった。
写真を撮らせてほしいと頼むと、男は少し首を傾げ、それから微笑みを深めた。カメラを正面から見据えるその表情には、わずかな誇りと照れくささが混じっている。彼にとってこのクイーンズホテルの制服は、単なる衣服ではなく、人生そのものなのかもしれない。ホテルの扉を開けるたび、彼の笑顔もまたこの街の空気を和らげている。
| 2008年8月 人びと スリランカ | |
| 帽子 ホテル キャンディ 男性 笑顔 |
No
1881
撮影年月
2008年3月
投稿日
2008年08月08日
更新日
2025年11月17日
撮影場所
キャンディ / スリランカ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM