実際の海は、驚くほど青かった。あまりに青くて、少し嘘くさいほどだった。しかし、このとき僕が手にしていたのは古い銀塩カメラで、中には白黒のフィルムが入っていた。沖縄の海の青を記録するには、あまりに無力な道具だった。けれども、写真というものは往々にして、記録できなかったもののほうが心に残る。青を失った代わりに、この一枚には静けさだけが焼き付いた。
丘の上から見下ろす海は、まるで眠っているようだった。遠く、浅瀬の上には波の筋が見え、一本のボートがゆっくりと通り過ぎていく。エンジン音はここまで届かない。代わりに、風の音と蝉の声が耳をくすぐるだけだ。視線を上げると、水平線の向こうに夏の雲が立ち上がっていた。あれはきっと、誰かがうっかり煮立たせすぎた夏の湯気である。
沖縄の雲はどれも性格が大雑把で、遠慮というものを知らない。あの雲が東京あたりに来れば、きっと空が窮屈で仕方がないだろう。ここでは雲ものびのびしている。白黒のフィルム越しに見ると、むしろ青い海よりもずっと存在感がある。
| 2007年8月 自然 沖縄 | |
| 雲 暗闇 南城市 海 海 |
No
1014
撮影年月
2007年6月
投稿日
2007年08月11日
更新日
2025年11月26日
撮影場所
南城 / 沖縄
ジャンル
風景写真
カメラ
CANON EOS 1V