ネパールのカトマンズ郊外にある、大きな仏塔の周りを回っていた。ここはチベット仏教の巨大な聖地として名高いボダナートだ。敷地の中央には高さ三十メートルを超える巨大なストゥーパ(仏塔)が鎮座している。塔の四方には「インサイト・アイ」と呼ばれるブッダの智慧の目が描かれており、すべてを見通すようにギロリと街を見下ろしていた。信者たちはこの塔の周りを、時計回りにぐるぐると歩いて巡礼する。これを「コルラ」と呼ぶのだが、もし反時計回りに歩いてしまうとご利益が綺麗サッパリ消えてしまうそうだ。僕は進行方向を間違えてバチが当たらないよう、前の人の背中を慎重に追いかけながら歩いた。
その前の人の背中を慎重に追いかけながら歩いていると、広場の片隅で白い帽子をかぶった年配の女性の周りに、夥しい数の鳩が集まっているのが見えた。彼女は大きな桶を手にして、地面へ勢いよく餌をばらまいている最中であった。仏教の世界、特にチベット仏教においては、生き物に餌を与えたり命を助けたりする行為は「放生(ほうじょう)」と呼ばれ、大きな徳を積む善行とされる。彼女もまた、自らの来世のために熱心に徳を稼いでいる最中なのだろう。チベットの伝統衣装であるチュバの上からベストを羽織った彼女の手から、バサバサと羽音を立てて群がる鳩たちへ、絶え間なく恵みが注がれていた。
その彼女が鳩に恵みを注ぐ長閑な光景のすぐ後ろに目をやると、なんとも物々しい看板が目に入った。パラソルの下に置かれた机には、はっきりと英語で「SECURITY GUARD DESK」と書かれている。その奥では、制服を着た警備員が椅子に深く腰掛け、退屈そうにこちらの様子を眺めていた。聖なる祈りと鳩の羽音に包まれた平和そのものの境内であるはずなのに、わざわざ警備デスクが鎮座しているあたりが実に興味深い。僕の知らないところで、この聖地には鳩の餌を奪い合う危険な抗争でも潜んでいるのだろうか。あるいは単に、警備員が日陰でサボるための格好の理由付けとしてデスクが用意されているだけかもしれない。どちらが正解なのか、はたまたどちらも間違っているのかは分からなかった。
| 2013年8月 町角 ネパール | |
| ボダナート 民族衣装 餌 鳩 寺院 女性 |
No
7820
撮影年月
2009年7月
投稿日
2013年08月23日
更新日
2026年07月22日
撮影場所
ボダナート / ネパール
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM