バリ島のウブドを歩いていると、どこかの家の軒先や寺の境内で、誰かがコーヒーを飲んでいる光景に出くわすことも珍しくはない。郵便局へ行く途中では、道端に腰掛けてコーヒーをすすっている男を見かけた。頭にはバリ特有の布「ウダン」を巻き、表情はどこか達観している。彼の前には紙コップなどではなく、透明なプラスチックのコップ。中には濃い色の液体がゆらめいていた。
バリのコーヒーは、豆を細かく挽き、粉ごとカップに注ぐスタイルが一般的だ。いわゆる「バリ式コーヒー」と呼ばれるもので、飲み終えたあと、底に黒い泥のような粉が沈む。最初にそれを知らずに一気に飲み干すと、たちまち口の中が砂場になる。観光客にはやや危険な飲み物である。
男はそんなことなど意に介さず、ゆっくりと香りを楽しんでいた。コーヒーというより、むしろ瞑想の一部に見えた。視線をこちらに向けることもなく、ただ淡々と飲み続けている。僕は思わずカメラを構えたが、シャッターを切る寸前、彼はすっと目を逸らした。まるで「俗世の写真など撮っても仕方がない」とでも言いたげだ。朝も昼も夜もコーヒーが飲まれるバリ島で、電気よりも安定して供給されているのは、たぶんこの飲み物だけだろう。
| 2009年9月 インドネシア 人びと | |
| バンダナ 珈琲 男性 リラックス ウブド |
No
3208
撮影年月
2009年6月
投稿日
2009年09月24日
更新日
2025年11月27日
撮影場所
バリ島 / インドネシア
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM