ミトーの道端にあるカフェのテーブルで、ひとりの幼い男の子が遊んでいた。体の半分をテーブルに乗り上げるようにして、両手を空き箱に突っ込んでいる。その箱には「HERO」と書かれていて、どうやらコーヒーのインスタント製品のパッケージらしい。箱の中にはもう何も入っていないが、彼にとっては立派なおもちゃのようだった。ときおり甲高い声を上げ、世界に自分の存在を知らせるかのように笑っている。
僕がカメラを向けると、男の子は一瞬だけこちらを見た。興味を示したようにも見えたが、すぐにまた箱に向き合ってしまった。被写体になることなど、彼の遊びの延長線上にはない。こちらの意図など、砂利の一粒ほどの価値もないのだ。
カフェの奥からは、金属フィルターでじっくりと抽出されるベトナム式コーヒーの香りが漂ってきた。濃厚な苦味と甘い練乳の組み合わせは、この国の気候によく似合う。しかし、僕は一瞬ためらった。というのも、このカフェが提供するのは、男の子が遊んでいるあの空き箱と同じ、インスタントコーヒーかもしれないと思ったからだ。
| 2009年7月 人びと ベトナム | |
| 男の子 珈琲 ミトー |
No
3018
撮影年月
2009年3月
投稿日
2009年07月28日
更新日
2025年11月24日
撮影場所
ミトー / ベトナム
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM