町の中心にある教会へと近づくと、中から妙に響く声が聞こえてきた。誰かが大声で語っているらしい。中を覗くと、案の定、神父が説教をしていた。メキシコのサアチーラという町にある教会だが、こうした場面はどこでも共通していて、説法はやけに長い。大勢の信徒が椅子に腰を沈め、半分は聞いているような顔をし、半分は聞いていないような顔をしている。結局のところ、話が長いのは神父に限らず、人間という生き物全般の習性なのかもしれない。
ようやく説教が終わると、祭壇の前に男の子たちが進み出てきた。彼らは色鮮やかな民族衣装に身を包み、羽飾りがこれでもかと付いた大きな帽子をかぶっている。音楽が鳴り響くと同時に、一斉にダンスが始まった。小さな体で跳ね回る姿は、単なる余興ではなく、この町の派手な祭りに欠かせない儀式のひとつらしい。教会の石造りの床が、まるで打楽器のように足音を響かせるのだから、これもまた祭りの一部なのだろう。
考えてみれば、メキシコには一年中どこかで祭りが行われているとも言われる。宗教行事と民俗的な要素が渾然一体となり、サアチーラのような地方都市でも、やけに大仰な派手な祭りが繰り広げられるのだ。帽子の重さで首が痛くならないのかと心配になるが、本人たちは涼しい顔をして踊り続けている。もしかすると、彼らにとっては祭りそのものより、踊り終わった後にふるまわれる食事のほうが楽しみなのかもしれない。何しろ、祭りというのは古今東西、宗教や芸能の名を借りて、結局は飲み食いの口実になることが多いのだから。
2010年12月 メキシコ 人びと | |
男の子 教会 衣装 ダンス サアチーラ |
No
4940
撮影年月
2010年7月
投稿日
2010年12月09日
更新日
2025年09月05日
撮影場所
サアチーラ / メキシコ
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
RICOH GR DIGITAL