ネパールの古都、バクタプルの旧市街を歩いていると、喉の渇きよりも先に、肌の不潔さが気になって仕方がなくなる。この町は慢性的な水不足という、都会育ちの僕にはいささか酷な宿痾を抱えている。空を仰げば小雨がぱらつく日もあり、天の恵みはそれなりに用意されているはずなのだが、僕が泊まっている宿のシャワーからは、石鹸の泡を流し切るに足りるだけの水すら出てこない。そんな日が続くと、人間というのは清潔への執着を通り越し、自らの体から漂う異国情緒溢れる臭気に対して、どこか他人事のような冷淡さを抱き始めるものである。
もっとも、この水不足というやつは今に始まった珍事ではないらしい。旧市街の広場には、千年も前からこうした事態に備えて「ポカリ」と呼ばれる巨大な貯水池が設けられている。ネパールの伝統的な水利施設は、かつてのマッラ朝時代に整備された精緻な石造りの建築物であり、単なる溜池とは趣を異にする。ふと見れば、年季の入ったレンガの塀から一人の女性が身を乗り出して、底深い貯水池をじっと眺めていた。水面はかなり下の方にあるようで、僕が立っている場所からは、彼女が水鏡に映る己の顔を見ているのか、それとも水底に沈んだ古の物語でも探しているのか、さっぱり判然としない。
| 2013年7月 町角 ネパール | |
| バクタプル のぞき見 池 女性 |
No
7730
撮影年月
2009年6月
投稿日
2013年07月24日
更新日
2026年03月09日
撮影場所
バクタプル / ネパール
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM