海外の路地裏を大きなカメラを提げて歩くというのは、つまるところ自ら厄介事を背負い込んで歩いているようなものである。バングラデシュの首都、ダッカのけたたましい喧騒と土埃の中を、僕はただでさえ重い足取りで彷徨っていた。この街の人口密度は世界有数であり、息を吸うだけで他人の生活臭が肺の奥まで入り込んでくるようなひどい息苦しさがある。そんなごちゃごちゃとした街角で、見知らぬ人間にカメラを向けるという行為は、相手の日常に対する暴力的な闖入に他ならない。だからこそ、レンズを向けられた側の反応は、人間という生き物の面倒くささを如実に表すことになる。カメラを向けると無理矢理にでも愛想笑いを作ってくれる者がいる一方で、親の仇でも見るかのように緊張して不機嫌な表情になる者もやっぱりいるのだ。
その「愛想笑い」と「不機嫌」という、相反する面倒くさい二つの反応を、まるで示し合わせたかのように一枚のフレームの中にそっくり収めてくれたのが、シャッターの閉まった店の前で出会ったふたりの男である。向かって左側の、だらしない無精髭を生やした男は、得体の知れない異邦人のレンズに対して、どういうわけか右手を挙げてひきつった笑いを浮かべている。南アジアの人々は概して写真に撮られることを好むというが、彼もまた、その期待に応えようと必死に陽気な振る舞いを捻り出しているのだろうか。隙間だらけの歯を見せてぎこちなく笑いながら手を振るその姿は、人の良さが滲み出ているというよりは、単に嫌と言えない小市民的な弱さを露呈しているようで、僕はレンズ越しに妙な同情を禁じ得なかった。
対照的に、その無精髭の男の肩に馴れ馴れしく手を置いている右側の男はというと、微塵もサービス精神を持ち合わせてはいなかった。彼は眉間に深い皺を刻み、口元をへの字に結んで、明らかなしかめっ面で僕を睨みつけている。「なぜ見ず知らずのお前なんぞにヘラヘラと顔を晒さなければならないのか」という、極めて真っ当で正当な抗議がその表情にはありありと浮かんでいた。
| 2010年3月 バングラデシュ 人びと | |
| ダッカ 二人組 男性 手のひら 笑顔 無精髭 不機嫌 |
No
3832
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年03月17日
更新日
2026年03月12日
撮影場所
ダッカ / バングラデシュ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM