かつての帝都コルカタを当てもなく歩いていた。イギリス植民地時代の豪奢な建築と、ひどい土埃が入り混じる混沌とした街である。そんな騒がしい通りを逃げるように歩いていると、ふと開け放たれた工房に行き当たった。中を覗き込むと、ランニングシャツ姿の男たちが数人、床に直接腰を下ろして車座になっている。彼らは一様に眉間に皺を寄せ、黙々と針仕事に没頭していた。
その黙々と針仕事を続ける男たちの手元を見ると、薄く透き通った布地に細かな装飾を縫い付けている。インドは世界でも有数のアパレル生産拠点だ。こうした気の遠くなるような手仕事を担う職人が、街の裏側には無数に潜んでいる。ヨーロッパの高級ブランドが売る目玉の飛び出るような価格の刺繍ドレスも、実はこうした名もなき男たちの手によって下請けで作られていることが多いという。それにしても、むさ苦しい男たちが揃いも揃って繊細な布をつまみ、ちまちまと針を動かしている図は、なんとも言えない奇妙な光景である。
その奇妙な光景の中で、彼らの表情は真剣そのものである。空調の効いているようにも見えないこの工房で、彼らの労働環境がいかほどのものなのか、よそ者の僕には知る由もない。ただ、無駄口ひとつ叩かず、険しい表情で作業を続ける空気からは、この職場特有のひどい厳しさが漂っている。
| 2011年10月 インド 人びと | |
| 刺繍 手仕事 コルカタ 針仕事 |
No
5825
撮影年月
2011年6月
投稿日
2011年10月21日
更新日
2026年03月15日
撮影場所
コルカタ / インド
ジャンル
スナップ写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM