ムンバイの雑踏を歩いていると、道端に腰を下ろしている親子に出会った。父親は白いシャツ姿で、息子はまだ幼いのにネクタイをきちんと締めている。ふたりを見比べてみると、髪型が全く同じであることに気づいた。いわば「同じ髪型の親子」だ。横分けに整えられた髪は、父と子を繋ぐ見えない絆のようで、しかし本人たちは特に意識もしていないのだろう。ムンバイという都市には、こうした小さな日常の符号がいくつも転がっている。
カメラを向けると、父親は静かに笑みを浮かべた。その表情は、撮られることに慣れているのか、あるいは単に人懐っこい性格なのか分からない。対して息子はレンズを見ようともせず、どこか上の方を見上げている。親子揃って同じ髪型をしているのに、視線は全く交わらない。そのアンバランスさがかえって面白い。親子とはえてして似ている部分と似ていない部分が混在しているものだ。
インドでは親子の関係もまた多層的だ。特にムンバイのような大都市では、伝統と近代、豊かさと貧しさが入り混じる。父親の横にいる少年のネクタイは、学校教育への期待や未来への象徴でもあるように見えたが、こちらの勝手な想像にすぎないのかもしれない。髪型だけを揃えていることに深い意味などなく、たまたま理髪店で同じ注文をしただけかもしれない。だが、凡庸な日常の中に、つい物語を読み込んでしまうのが旅行者の性分である。
2011年3月 インド 人びと | |
男の子 男性 ムンバイ 親子 笑顔 ネクタイ |
No
5245
撮影年月
2010年9月
投稿日
2011年03月01日
更新日
2025年09月09日
撮影場所
ムンバイ / インド
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM