雨に濡れた石畳の路地を、傘を差した男が歩いていく

雨の中を傘を差して歩く男
雨の中を傘を差して歩く男

ネパールのバクタプルに滞在している間、毎日のように雨が降っていた。降り方が湿っていて、日本の梅雨によく似ている。この時期に訪れた人は、傘を持たずに宿を出ると、たいてい後悔することになる。出かける時に雨が降っていなくとも、傘を忘れてはならない。

著者 : 沢木耕太郎
新潮社
発売日 : 2020-08-01

梅雨に似ていると書いたが、雨の総量そのものは驚くほどではない。カトマンズ盆地の年間降水量は、東京とさほど変わらないといわれる。ただし、その大半が雨季の数か月に押し込まれている。一年分をまとめて前借りしているような降り方だ。

まとめて降っているにもかかわらず、バクタプルは水不足だった。宿でシャワーを浴びられない日もあった。頭の上に水が落ちてきているのに、蛇口からは出てこない。町に降っても、水源地に降らなければ意味がないらしい。

意味がないとわかっているので、この谷では昔から水の手当てをしてきた。旧市街には石造りの吐水口が点在している。地下水路から水が湧き出す仕組みで、何百年も使われてきた。谷の外から水を引く計画も、何十年も前から進んでいる。進んではいるが、まだ道半ばだと聞いた。

道半ばの間、人はバケツを持って並ぶ。街角の水場には、いつも行列ができていた。空を見上げれば雨が降っている。それでも列は動かない。皮肉というより、水の都合と人の都合が噛み合っていないだけだ。

噛み合わないまま歩いていると、また雨が降ってきた。もともと薄暗い路地が、さらに暗くなる。石畳は濡れて黒光りし、路面だけが妙に明るい。空の明るさが、そっくり足元に移ったような按配だった。

その明るい路面を、傘を差した男が歩いていた。ビニール袋を提げ、こちらに背を向けている。濡れた石畳は見るからに滑りそうなのに、男はスイスイと進んでいく。歩幅も変えない。

歩幅を変えないその足取りを真似してみようと思った。二歩でよろけた。ちなみにネパールでは雨季の最中に田植えの日という祝日があって、人々は泥の中に入り、ヨーグルトと干し米を食べる。泥に足を取られる前提の国では、石畳ごときで転ぶ僕の方が例外なのだろう。

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ENGLISH
2010年1月 町角 ネパール
路地 バクタプル シルエット

PHOTO DATA

No

3615

撮影年月

2009年6月

投稿日

2010年01月24日

更新日

2026年08月04日

撮影場所

バクタプル / ネパール

ジャンル

ストリート・フォトグラフィー

カメラ

CANON EOS 1V

レンズ

EF85MM F1.2L II USM

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