バナウェの中心地に足を運ぶと、広場と呼ぶにはやや狭い空間に、何台ものトライショーが並んでいた。フィリピンのルソン島を旅していると、どの町でもこのバイクにサイドカーを付けた乗り物を見かける。要はバイクタクシーなのだが、屋根付きで雨除けのカーテンまで備わっているのが特徴である。バナウェは棚田で有名な観光地なのに、観光客用の駐車場よりも、こうした地元のトライショーのたまり場の方が圧倒的に目立つ。狭い平地をわざわざ乗り合いのための駐車場にしてしまうのは、農耕地を削ってまで作った棚田の歴史を考えると、少々もったいない気もするが、これもまた現代的な暮らしの一部なのだろう。
一台のトライショーに目をやると、サイドカーの中に男が座り込んでいた。動く気配はなく、どうやら出番を待っているらしい。遠くを見ながら煙草をふかしているようにも見えるし、あるいはただぼんやりしているだけかもしれない。屋根があるため、スコールに見舞われても慌てる必要はない。フィリピンの雨季は突然の豪雨がつきもので、折り畳み傘などは無力に等しい。トライショーの運転手にとって、屋根は単なる雨除け以上の存在である。だが、男の様子を見ていると、客待ちよりも日陰での居眠りに使っているのではないかという疑念が湧いてくる。結局のところ、彼にとってサイドカーは職場であると同時に、待機場兼休憩所であり、ある意味では自宅の居間の延長なのかもしれない。
2014年4月 町角 フィリピン | |
バナウェ お喋り サイドカー トライショー |
No
8472
撮影年月
2008年9月
投稿日
2014年04月17日
更新日
2025年09月08日
撮影場所
バナウェ / フィリピン
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM