東京の真ん中にある代々木公園を、当てもなく歩いていた。ここは戦前には陸軍の練兵場であり、戦後は米軍の居住区であるワシントンハイツを経て整備されたという歴史を持つ。そんなきな臭い過去など微塵も感じさせないほど、今の園内には平和な木々が生い茂っている。意味もなく歩き回って少しばかり足が疲れたので、どこか座る場所はないかと見回してみた。この公園には、ところどころに木製のベンチが設置されている。疲れた人間がちょっと休憩するには、とても便利でありがたい代物だ。
そのとても便利でありがたいベンチのひとつに、若い女性がひとりで腰を下ろしていた。彼女は手になにやら本を持っていて、ベンチの上に片膝を立てながら読書に没頭している。写真の奥の方を見れば分かる通り、すぐ後ろの広場では連中がキャッチボールだか野球だかをして騒いでいるのだ。それなのに、彼女はボールが飛んでくるかもしれないという危機感も持たず、ただ活字の世界に浸りきっている。初夏の風に吹かれながら、木漏れ日の下で本を開くのは、さぞかし心地良いに違いない。
そのさぞかし心地良いであろう公園での読書という発想は、この女性の姿を見るまで僕の頭の中にはちっとも存在しなかった。本を読もうと思い立った時は、だいたい自然と近所の薄暗い喫茶店に足が向いていたからだ。何せ僕にとって、苦い珈琲と煙草の煙は、読書をする時に絶対に欠かせない必須の小道具である。しかし、こうして見知らぬ他人が木陰で実に気持ちよさそうにページをめくっているのを見ると、たまには煙草を我慢して青空の下で文字を追うのも悪くないかもしれないと思えてくる。
| 2007年10月 人びと 東京 | |
| ベンチ 原宿 読書 日陰 代々木公園 |
No
1159
撮影年月
2007年9月
投稿日
2007年10月23日
更新日
2026年05月11日
撮影場所
原宿 / 東京
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V