上海の古い路地を歩いていると、帽子をかぶった郵便配達人が現れた。肩にはずっしりと郵便鞄を下げ、片手には束になった新聞や手紙を抱えている。古びた家々の壁には錆びた郵便受けがいくつも並び、どれも長年の雨と湿気で色が剥げていた。迷路のような路地に郵便を正確に届けるのは、さぞ骨の折れる仕事だろう。だが、この郵便配達人の動きには迷いがない。慣れた手つきで手紙を差し込み、新聞を軽く押し込む。その姿は、もはや地図を超えた人間ナビゲーションのようだった。
中国の上海では、こうした路地を「里弄(リーロン)」と呼ぶ。近代以前の集合住宅街で、狭い通路に沿って二階建ての家が並ぶ構造だ。もともとは裕福な商人の屋敷だったものが、時代の流れとともに細分化され、今では何十世帯もが肩を寄せ合って暮らしている。電線が縦横無尽に走り、洗濯物が頭上を渡る。路地の奥には湯気が立ちのぼり、誰かの昼食が煮えている匂いがする。こういう生活の密度は、日本の都市ではもうほとんど見られない。
| 2008年8月 中国 人びと | |
| 路地 配達 郵便配達人 上海 |
No
1952
撮影年月
2008年6月
投稿日
2008年08月30日
更新日
2025年11月12日
撮影場所
上海 / 中国
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM