インド東部の町、マルダの市場近くを歩いていると、通りに面した小さな店の中で数人の男たちが忙しそうに立ち働いていた。棚から何かを取り出す者、客と話す者、奥で帳簿をめくる者。それぞれが役割を持って動いている中で、一人だけ妙に余裕のある男がいた。
カメラを向けると、その男は唐突に腕を水平に突き出し、顔の前にかざすという不思議なポーズを取った。まるで武術映画のワンシーンを意識したか、あるいは鳥の真似をしているのか、判別はつかない。白髪交じりのヒゲが陽の光を反射し、目だけが鋭くこちらを見据えている。明らかにおどけた男で、しかも相当陽気だ。
背後では同僚たちが真面目に働いているが、彼はお構いなしだ。もしかすると、本当に仕事がないのかもしれないし、あるいは外国人がカメラを構えたのを好機と見て、一時的に「被写体業」に転職したのかもしれない。インドでは、知らない人に突然ポーズを取られるのは珍しいことではなく、むしろカメラを構えていると勝手にモデルが集まってくることもある。
結局、この男が何の職務を担っていたのかは分からなかった。ただ、あの白髪交じりのヒゲと、場違いなほどの余裕ある笑みは、暑さの中で一服の涼風のように記憶に残った。もっとも、その風は働き手たちには少々邪魔だったかもしれないが。
2012年6月 インド 人びと | |
陽気 マルダ 男性 ポーズ |
No
6521
撮影年月
2011年7月
投稿日
2012年06月12日
更新日
2025年08月12日
撮影場所
マルダ / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
OLYMPUS PEN E-P2
レンズ
M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42MM