フィリピン北部の古都ビガンといえば、スペイン統治時代の面影を色濃く残す街並みで知られ、世界遺産などという仰々しいお墨付きまで貰っている場所である。そんな歴史情緒をひどく無神経にぶち壊すように、無地の壁面には巨大な「M」の字がへばりついていた。言わずと知れたマクドナルドのロゴである。わざわざ異国の風情を求めて埃っぽい通りを歩いてきた身としては、ひどく出鼻をくじかれたような気分になる。アメリカの巨大資本は、こんな辺鄙な田舎町にまで遠慮会釈なく進出しているらしい。もっとも、この国はかつて長らくアメリカの植民地であったのだから、ハンバーガーやコーラといったカロリーの塊を無条件に受け入れる土壌は、とっくの昔に完成しているのだろう。
驚いたことに、この古都の店舗にはご丁寧にドライブスルーの設備まで完備されている。日本では車で乗り付けるのが当たり前だが、ここでは無数の小排気量バイクが列をなし、けたたましい排気音を撒き散らしながら器用に窓口で注文をこなしていくのだ。ちなみに、あの有名な「M」のマークはマクドナルドの頭文字ではなく、創業時の店舗建築にあった「ゴールデンアーチ」という二つのアーチの形に由来するという、実にどうでもいい雑学を僕はこんな所でふと思い出していた。
その不気味なほど巨大なMの字の真下で、母親と思しき女性と娘が器用に一台の小汚いスクーターに跨って、こちらのレンズを見つめていた。後ろに乗っている娘の手には、ノートらしきものが握られている。どうやら学校帰りのところを母親が迎えに行き、そのまま小腹を満たすために立ち寄った、といった寸法らしい。勉学の後に腹が減るのは万国共通の生理現象だとはいえ、世界遺産の街でバイクにまたがったまま、アメリカ生まれのファストフードを買い求める彼女たちの姿には、生活のたくましさというよりも、もはや抗いがたいグローバリズムの滑稽な勝利を見せつけられているような気がした。
| 2008年12月 人びと フィリピン | |
| 娘 お母さん バイク ノート 親子 看板 ビガン |
No
2327
撮影年月
2008年9月
投稿日
2008年12月20日
更新日
2026年03月11日
撮影場所
ビガン / フィリピン
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM