編笠を被った女性が、ホーチミン市の道端でじっとこちらを見ていた。手元には屋台らしき木箱があり、その上にはいくつかのフランスパンが積まれている。ベトナム名物として知られるバインミーを売っていたのだ。もっとも、ベトナムの人々がもともとフランスパンを好んで食べていたわけではない。植民地時代にフランス人が持ち込んだ食文化が定着し、米粉を混ぜた軽い食感のパンへと独自に変化していった。要するに、外来文化をちゃっかり自分流に仕立ててしまうのがこの国の得意技なのである。
編笠は単なる日除けではなく、雨傘としても使える優れものだ。日本でこれを街中で被れば、ただの変わり者に見られるだろうが、ホーチミン市の雑踏では実用的な日用品として誰も気に留めない。むしろ、ないと困る。女性の顔には労苦の跡が刻まれているように見えたが、それは私の旅行者としての勝手な想像に過ぎないのかもしれない。屋台の奥からは、パクチーや唐辛子、豚肉を挟んだバインミーの香りが漂ってきて、観察者としての冷静さを忘れさせそうになる。
2009年5月 人びと ベトナム | |
編笠 食べ物の屋台 ホーチミン市 女性 |
No
2807
撮影年月
2009年3月
投稿日
2009年05月18日
更新日
2025年09月10日
撮影場所
ホーチミン市 / ベトナム
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM