編笠を被った女性が、天秤棒を肩に担ぎ、両端に吊るした籠には色とりどりの商品が詰め込まれていた。果物からスナック菓子、そして生活雑貨まで、あらゆるものを詰め込んだ籠は、まるで移動式の小さな市場のようであった。ここはベトナムのホーチミン市、街角を歩いていると、このような行商人にしばしば出会う。観光客向けというよりも、地元の人々にとっての日常の買い物の一部を担っているように見える。
編笠は強い日差しを防ぐ実用品であると同時に、ベトナムの田園風景から都市の路地裏まで広く見かける伝統的な意匠だ。フランス統治時代にパンやバインミーが根付いたのと同じように、この編笠もまた生活に深く結びつき、ベトナムの象徴のひとつとして観光ポスターなどに登場する。だが当の本人にしてみれば、観光用の記号などではなく、単に実用的で安価な帽子にすぎない。
天秤棒による運搬は効率的なのか非効率なのか、冷静に考えるとよく分からない。バランスを崩せばすべての荷物が道路に散乱するし、片側だけ売れて軽くなると、歩くたびに傾いてやりにくそうでもある。しかし、ホーチミン市の雑踏の中でこの方式は長年続いてきたのだから、やはり合理性があるのだろう。ひょっとすると、単純に手押し車よりも小回りが利くという、それだけの理由かもしれない。
背後の壁には大きなポスターが貼られており、異国情緒を狙った眼差しがこちらを見下ろしている。だが、目の前の行商人にとってそんなものは無関係だ。日々、商品を少しでも多く売り切ることのほうが重要なのである。観察者の私は、荷物に隠れて歩く編笠の女性の背中を眺めながら、都会の真ん中に流れるこの小さな労働の風景に、妙に現実味を感じていた。
2009年5月 人びと ベトナム | |
商売 運搬 行商人 ホーチミン市 仕事 天秤棒 |
No
2806
撮影年月
2009年3月
投稿日
2009年05月18日
更新日
2025年09月10日
撮影場所
ホーチミン市 / ベトナム
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM