マレーシアの南部に位置するバトゥ・パハの市場を歩いてみたものの、見事なまでに閑散としていた。昭和の初期に、放浪の詩人である金子光晴もこの地を訪れている。彼はその泥臭い熱気を名著『マレー蘭印紀行』に書き残した。だが、僕が訪れた昼過ぎの市場には、かつて光晴が嗅ぎ取ったはずのむせ返るような活気など微塵も残っていなかった。単に来る時間が遅すぎたというだけの話である。熱帯の気怠い昼下がりにおいて、市場の人間たちはすっかり商売の熱を失っている。霧散した活気の跡には、ただ生ぬるい空気が淀んでいるだけだった。
その生ぬるい空気が淀む市場の端っこで、オーバーオールを着た一人の男の子が退屈そうに遊んでいた。他にろくな被写体もないので、暇つぶしに黒いカメラを向けてみる。すると彼は、不審な異邦人を警戒するどころか、実に晴れやかな顔をしてこちらを見つめ返してきた。そして、いわゆるピースサインらしきものを作って見せたのだ。南国の小さな町にまで、写真といえばこのポーズというステレオタイプが浸透していることにはひどく感心させられる。
| 2009年4月 マレーシア 人びと | |
| バトゥ・パハ 男の子 陽気 ピースサイン |
No
2723
撮影年月
2009年1月
投稿日
2009年04月26日
更新日
2026年04月27日
撮影場所
バトゥ・パハ / マレーシア
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM