バングラデシュの古都、ショナルガオを歩いていると、薄暗い雑貨屋の軒先で一人の男が腰をかけていた。白いタキーヤをかぶり、こちらをじっと見つめている。カメラを向けると、少し驚いたような顔をしたが、逃げるでも笑うでもない。むしろ「何を撮るんだ」という無言の問いを投げかけているようだった。
男の背後の棚には、小袋がびっしりと吊るされていた。遠目にはシャンプーの試供品のように見える。だがそれらは洗髪用品ではなく、グトゥカーという嗜好品だった。グトゥカーとは石灰やタバコの葉、香料などを混ぜた細粒状の混合物で、舌の裏や歯茎と唇の間に入れて味わう。バングラデシュやインドなど南アジアで広く愛用されているが、その刺激はタバコより強いとも言われる。口の中で長い時間かけて楽しむため、会話の途中でも頬の片側が妙に膨らんでいる人が多い。
この雑貨屋もまた、その地域の小さな文化を象徴しているように見えた。小袋ひとつ数タカ。シャンプーも石鹸も、グトゥカーもすべて量り売りの延長のように並んでいる。経済の仕組みというものは、こうして生活の単位に溶け込んでいるのだ。
| 2010年5月 バングラデシュ 人びと | |
| 視線 ショナルガオ 無精髭 タキーヤ |
No
4112
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年05月21日
更新日
2025年10月27日
撮影場所
ショナルガオ / バングラデシュ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM