スレンバンの市場は、想像していたよりもずっと大きな建物の中に収まっていた。マレーシアの地方都市にありがちな、開放的で雑然とした露天を思い描いていたので、最初は少し拍子抜けした。フロアは広く、小規模な店がいくつも等間隔に並び、魚や野菜や正体不明の乾物が、それぞれの持ち場を守っている。だが肝心の人影はまばらで、混雑とはほど遠い。通路の向こうで、ヒジャブを被った女性が買い物を終え、袋を下げてゆっくり歩き出すのが見える程度である。
この市場には文明の利器たる冷房装置は見当たらない。その代わり、天井からいくつものシーリングファンがぶら下がっている。でも積極的に風を起こそうという意志は感じられない。どれも仕事に対する情熱を早々に失った中間管理職のようで、じっと時間が過ぎるのを待っているだけだ。そのため空気は動かず、湿気だけが正直に存在感を主張してくる。
とはいえ、この蒸し暑さも市場の一部なのだろう。東南アジアの市場文化は、もともと暑さと共存することで成立してきた。冷房で快適にするより、汗をかきながら必要なものを選ぶほうが、食材の鮮度にも人間の判断力にも良い、という理屈がどこかにあるのかもしれない。
| 2014年6月 町角 マレーシア | |
| 天井ファン 市場 スレンバン |
No
8620
撮影年月
2009年1月
投稿日
2014年06月30日
更新日
2026年01月11日
撮影場所
スレンバン / マレーシア
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM