露天商の女性は笑ってくれたものの、カメラは見てくれなかった

笑う女性の露天商
笑う女性の露天商

ベトナム南部の町、ミトーの道路脇に腰を下ろしていた女性は、どうやら行商人だった。足元には籠や鍋が置かれ、何やら食べ物を売っているらしい。頭には大きな編笠がちょこんと乗り、顎の下でしっかり紐が結ばれている。南国の陽射しは遠慮がないので、これくらいの遮光装備は必須なのだろう。

カメラを向けると、彼女は一瞬こちらを見たように思ったが、すぐに視線を外し、口を大きく開けて笑顔を見せた。笑いながらも決してレンズとは目を合わせず、顔を少し斜めにそらしている。恥ずかしいのか、それとも「写真は魂を抜く」という迷信がどこかに残っているのか、あるいは単に売り物のほうが気になるのか。理由は分からないが、その笑みは人懐っこさと警戒心が同居していた。

ベトナムの編笠は「ノンラー」と呼ばれ、竹や椰子の葉で作られる。雨よけ、日よけはもちろん、裏返せば即席の器としても使える便利な道具だ。市場や路上で商売する行商人の多くは、これを頭に載せて長時間座り込み、日差しと雨と値切り交渉を同時にしのいでいる。

結局、僕は何も買わずに立ち去ったが、あの時の笑顔だけは妙に記憶に残っている。買わなかったことを後悔するほどではないが、あの笑みが値段に含まれていたなら、少しは財布の紐も緩んだかもしれない。

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ENGLISH
2009年8月 人びと ベトナム
クスクス笑い 編笠 笑い ミトー 女性

PHOTO DATA

No

3036

撮影年月

2009年3月

投稿日

2009年08月02日

更新日

2025年08月11日

撮影場所

ミトー / ベトナム

ジャンル

ポートレイト写真

カメラ

CANON EOS 1V

レンズ

EF85MM F1.2L II USM

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