道端でゆったりと腰を下ろしていた若い男に出会った。ここはメキシコ、オアハカ州のフチタンという町である。旅人が通りを歩いていると、道端で寛いでいる地元の人々を頻繁に目にする。どうやら彼らは、時計の針を日本とは別の速度で進めているらしい。日本での一時間が、ここでは半日にも感じられる。あるいは、その逆かもしれない。時間の感覚は文化によってこうも変化するのかと、妙に納得したりもする。
フチタンは市場が賑やかで知られ、オアハカ州の中でも特に独自の文化を持つ町だ。メキシコの中でも強い先住民文化が残っており、サポテク語系の言語や伝統衣装が生活の中に根付いている。市場に行けば色鮮やかな布が山のように積まれ、食堂ではトルティーヤの香ばしい匂いが漂ってくる。男が着ていたシャツは、どこにでもある綿のTシャツだったが、それでも町の空気に不思議と調和していた。
カメラを向けると、男は少し得意げに、しかしどこか少年めいた満足そうな笑みを浮かべた。その笑顔は、観光客に愛想を振りまく商売上手のものではなく、ただ暇つぶしに腰掛けていたら偶然レンズを向けられた、という程度のものだったのかもしれない。だが、旅先での写真とはえてしてそういう偶然に支えられている。本人の気分次第で、世界の一コマが記録されるかどうかが決まるのだから、写真家にとっては随分と運任せの仕事である。
オアハカ州の太陽は強烈で、昼下がりには空気が乾ききり、まるで時間までもが干からびているかのようだ。フチタンの町の路地に腰を下ろす若者は、そんな陽射しをものともせず、ただそこにいる。僕はその光景を目に焼き付けながら、妙に羨ましくも思えた。
2011年1月 メキシコ 人びと | |
フチタン リラックス 笑顔 青年 |
No
5040
撮影年月
2010年7月
投稿日
2011年01月09日
更新日
2025年09月08日
撮影場所
フチタン / メキシコ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM