カメラを首からぶら下げて異国の裏通りをうろつくのは、国によっては自ら厄介な好奇の的になりに行くような作業である。バングラデシュ北西部の都市、ロンプールの道端を僕は汗だくになりながら歩いていた。ベンガル語で「色の街」を意味するという地名を持つこの街だが、目の前に広がる路地裏の光景はただひたすらに土気色で、うんざりするほどむせ返るような喧騒に満ちている。そんな無愛想な街角で、カメラを抱えて歩くひどく場違いな僕の姿を目ざとく見つけ、のこのこと近づいてきたのが、一人の男の子であった。
その男の子は警戒心などという面倒なものを母親の胎内にそっくり置き忘れてきたかのような、やけに好奇心旺盛な面持ちをしていた。彼は僕の持つ黒いレンズの塊に興味津々らしく、妙にキラキラとした瞳でこちらをじっと見つめてくる。南アジアの人間は総じて写真に撮られることを好むというが、彼もまたその例に漏れないらしい。仕方なく歩みを止めてファインダーを覗き込むと、男の子は待ってましたとばかりに、少しも物怖じすることなく、隙のない立派な笑顔を作ってくれた。
その隙のない立派な笑顔の中で、とりわけ僕の目を引いたのは、日焼けした肌とはひどく不釣り合いなほどに真っ白な彼の歯である。インド亜大陸周辺では、ニームなどの木の枝を噛んで先をブラシ状にした「ダトゥン」と呼ばれる天然の歯ブラシを古くから使う風習があるそうで、虫歯予防の理にかなっているというが、彼の口元もその恩恵を十分に受けているのかもしれない。
| 2010年5月 バングラデシュ 人びと | |
| 男の子 好奇心 ロンプール 笑顔 歯 |
No
4060
撮影年月
2009年9月
投稿日
2010年05月09日
更新日
2026年03月13日
撮影場所
ロンプール / バングラデシュ
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM