強烈な日差しに炙られながら、インド・マハーラーシュトラ州北西部の都市ナシークの埃っぽい道端を、僕はひどく億劫な足取りで歩いていた。ストリートの写真を撮り歩いてはいるものの、首からぶら下げた無骨な一眼レフカメラの重みは、ただでさえ萎えている歩行の意欲を容赦なく削いでいく。近年、このナシークといえばインドワインの一大産地などと洒落た顔で取り沙汰されたり、古代の叙事詩ラーマヤナの舞台として神聖視されたりしているが、実際の路地裏に転がっているのは芳醇な葡萄でも神の恩寵でもなく、ひたすらに土埃と野次馬ばかりである。そんな折、ツバの先がすり切れた不釣り合いに大きな帽子をかぶった男の子と出くわした。僕が物々しい機械を抱えてうろついているのを目ざとく見つけるや否や、のこのこと近づいてきたのだ。どうやらこのレンズの塊に興味津々なご様子である。その無遠慮な好奇心にいちいち応じる義理もないのだが、暇つぶしにレンズを向けてみると、男の子は予想に反してちょっとはにかみ、所在なげに白い歯を見せて微笑んだ。
もし仮に、この場に彼の取り巻き連中や悪ガキ仲間が数人でも徒党を組んでいれば、異邦人の向けるレンズに対して、それはもう猿山のような騒ぎ立てようを見せたに違いない。インドの路地裏の子供というのは、群れると途端にやかましくなるのが相場である。しかし、幸か不幸か、その日の彼は完全にひとりきりであった。腹の底では大声を上げてはしゃぎ回りたかったのかもしれないが、あいにくその狂騒に便乗して盛り上がってくれる友だちはどこにもいない。結果として、彼はたったひとりで、自己完結的に「写真を撮られる」というささやかな非日常の楽しさを、口の中で飴玉でも転がすようにじっと噛み締めなければならないのであった。
| 2015年6月 インド 人びと | |
| 恥ずかしがり屋 男の子 帽子 ナシーク |
No
9322
撮影年月
2010年9月
投稿日
2015年06月25日
更新日
2026年03月10日
撮影場所
ナシーク / インド
ジャンル
ポートレイト写真
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM