龍山寺の近く、台湾は台北の古い街区の一角で、男が通りに立っていた。両手をポケットに突っ込んだまま、煙草をゆっくり吹かしている。白いワイシャツにネクタイという格好からすると、どこかの会社に勤める人なのだろうが、背筋の伸ばし方や立ち方のせいか、学校の先生のようにも見える。場所柄、参拝帰りの人や観光客が行き交うのだが、男はそれらに目を向けるでもなく、通りの一点を眺めているだけだった。
このあたりは龍山寺の門前町として栄えてきた場所で、古くから商いと信仰が同居している。近くには露店も多く、時間帯によっては線香の匂いと揚げ物の油の匂いが仲良く混ざる。台湾の都市史を少し齧ると、こうした寺院周辺が人の溜まり場であり、情報交換の場でもあったことが分かる。男がここに立っているのも、単なる偶然ではないのかもしれない。
もっとも、男の表情は晴れていない。仕事の合間に気分転換でもしようと外に出てきたのだろうが、どうも思惑通りにはいっていないようだ。台湾の会社員事情に詳しいわけではないが、台北のビジネス街では残業も多いと聞く。ひょっとしたら、会議で詰められた直後か、上司に曖昧な指示を投げられたばかりなのかもしれない。いずれにせよ、煙草一本で片づく程度の悩みなら、まだ軽症だろう。男の内心がどうであれ、通りは淡々と機能している。買い物袋を提げた人は歩き、スクーターは器用に隙間をすり抜け、時間だけが公平に進んでいく。
| 2007年3月 町角 台湾 | |
| 煙草 食べ物の屋台 男性 喫煙 台北 ネクタイ |
No
776
撮影年月
2007年1月
投稿日
2007年03月07日
更新日
2025年12月23日
撮影場所
台北 / 台湾
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V