セフルーの旧市街を歩いていると、ふと時間の感覚が曖昧になる瞬間がある。古い壁に挟まれた、細く曲がりくねった石畳の路地。頭上には突き出した梁や小窓が重なり合い、どこかの修道院か砦のようにも見える。まるで中世のロールプレイングゲームのなかに迷い込んだかのような錯覚を覚えた。
そんな石の道の先に、小太りの女性の姿が見えた。色あせた衣を幾重にもまとい、片手には杖を突いている。道は凹凸が激しく、石のひとつひとつがまるで時代の名残のようだった。歩くたびに体をゆっくりと揺らしながら、彼女は黙々と進んでいた。
足元を確かめながら一歩一歩踏みしめていく姿は、どこか重厚な音楽のようなリズムを持っていた。やがて、彼女は影の奥へと吸い込まれるようにして姿を消していった。静かだった。
女性の姿が完全に見えなくなったあと、僕はひとり取り残された。路地の奥にも、後ろにも、人の気配はなかった。風も止み、空気だけがそこにあった。時間だけが、まるで壁の中に染み込んでいるかのように、静かに、重く、そこに存在していた。
2014年11月 町角 モロッコ | |
路地 バック・ショット セフルー 窓 |
No
8898
撮影年月
2010年1月
投稿日
2014年11月16日
更新日
2025年06月13日
撮影場所
セフルー / モロッコ
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM