ベルハンポルの住宅街を、例によってカメラを片手に歩いていると、ほどなくして子どもたちが僕の周りに集まりはじめた。インドの田舎町では、特別なことをしなくても、一眼レフカメラを持っているだけで人目を引く。どうやらここではカメラは誘虫灯の一種らしく、光るわけでもないのに、子どもたちを次々と引き寄せてしまう。
集まってきた子どもたちは、僕の前でぴたりと足を止め、僕の一挙手一投足をじっと観察している。好奇心という名の視線が、何本も同時に突き刺さってくるようで、少々落ち着かない。こちらも応戦するつもりはないが、自然と一人ひとりの顔を眺め回すことになる。すると、その中に一本だけ、妙に規則正しく動く腕があった。歯を磨きながら、こちらを凝視している女の子である。手にはしっかりと歯ブラシが握られていた。
何が起きているのか正確には分からなくても、周囲がざわついていることは察したのだろう。歯を磨いている最中ではあったが、見逃してはならない出来事だと思ったに違いない。僕と目が合うと、女の子は少し恥ずかしそうにはにかんだ。しかし感情とは無関係に、歯ブラシの動きだけは止まらなかった。その几帳面さには感心するが、同時に、そこまでして見なくてもよさそうなものだとも思う。
旅をしていると、日本とは異なる衛生観念に戸惑う場面も少なくないが、歯を磨くという行為そのものは万国共通らしい。もっとも、日本では屋外で歯磨きをする光景はあまり見かけない。文化の違いとは、こうした些細な場面にこそ、しれっと姿を現すものなのだろう。
| 2013年5月 インド 人びと | |
| ベルハンポル 歯磨き 女の子 歯 |
No
7507
撮影年月
2011年6月
投稿日
2013年05月10日
更新日
2025年12月23日
撮影場所
ベルハンポル / インド
ジャンル
ストリート・フォトグラフィー
カメラ
CANON EOS 1V
レンズ
EF85MM F1.2L II USM